top of page

京都駅八条口を背にして6分ほど歩くと、先ほどまでのざわつきが嘘のような静かな住宅街にたどり着く。Google MAPの指示通り、大通りから一本入ると、目的のホテル「KANSEI京都八条」が姿を現した。白と深紅のバイカラーが印象的な、大きな暖簾がかかっている。




「KANSEI京都八条」は、五感をテーマにウェルビーイングを追求する新ブランド「KANSEI」としての、第一号となるホテルである。同ホテルでは五感のなかでも嗅覚に焦点を当て、「香りで巡る和ごころの旅」がコンセプト。心地よい香りを纏い、心と体を養うことで、京都での旅全体の幸福度を向上させる。


暖簾をくぐるとさっそく爽やかなヒノキの香りに包まれ、心が癒された。


___


チェックイン手続きをしていると、フロントの横のスペースにショップのようなコーナーがあった。華やかなディスプレイが気になっていると、ホテルスタッフの方が説明してくれた。



「ここは”フレグランスギャラリー”でして、厳選した多種多様な商品を取り揃えています。お好きな香りに出会っていただけたらと。」お香やアロマ、バスソルトやハーブティーなどが並んでおり、香りの種類も楽しみ方もさまざまだ。もちろん購入もできる。



ギャラリーの向かいにはアメニティバー……だけかと思いきや、上段にアロマオイルが飾られていた。こちらは「フレグランスBar」で、3種類の中から気に入った香りとミニディフューザーを借りてお部屋に持ち込むことができると言う。


オリジナルブレンドや季節を感じる香りが並び、一つひとつ香って確かめてみたが、どれも甲乙つけがたい……と、悩んでいる時にふと思った。「今のわたしは、どういう状態で、何を求めているのか」と、香りを頼りに真剣に思索していることに気づいた。これはまさに、自分の感性に触れる、能動的な行いなのかもしれない。



悩んだ末に決めた、ホテル名を冠した香りを持ってお部屋に向かう。お部屋はシンプルであえて無香空間にしているらしく、気に入った香りでカスタマイズできるのが嬉しい。柑橘やハーブのようなフレッシュな香り。この日はまだ5月だというのに夏のような暑さだったが、香りのおがげで気持ちがスーッと穏やかになっていくのを感じた。



___


お部屋で一休みしたあと、夕方以降には「香りとお酒のペアリング体験」(!?)ができるというので、1階ラウンジへ向かった。京都の地ビールや日本酒があり、それぞれに合うアロマを選んでもらう。香りを”ツマミ”にお酒を飲むということか……?



私は京都の老舗酒蔵、「神蔵(かぐら)」の純米酒を注文した。一緒に運ばれてきたのは飛騨杉のアロマオイル。木のプレートの上にアロマを垂らすと、ふんわりと香り、森の中にいるような気持ちになる。日本酒の甘やかでありながらコクのある味わいを楽しみながら、目を瞑ってみる。こんな風に味覚や嗅覚を開いて、ゆっくりと過ごすのは久しぶりな気がする。



しばらくそうして味わいながら、ぼんやりエントランスの方を眺めていると、ゲスト達が壁に書かれた京都のマップを見て楽しそうに話している。



このマップは「2回目からの京都旅」をテーマに、ホテルスタッフ達が実際に訪れた場所が示されているらしい。確かに、ちょっとニッチな切り口で京都エリアのお店がレコメンドされていて、興味がそそられる……。


気持ちよく酔いが回ってきた。香りとお酒のペアリングのリラックス効果は想像以上だ。


___


アロマを焚いて眠りにつき、目覚めのいい朝を迎える。


私は毎朝コーヒーを飲むのが習慣なので、朝の香りといえばコーヒーだ。お部屋のテーブルには、京都の老舗コーヒーブランド「小川珈琲」のドリップバッグが2種類用意されていた。「Active」と「Relax」、気分に合わせたブレンドなのだろう。


今日の仕事に備えて「Active」を体に注入しながら、今回の滞在を振り返っていた。素敵な香りにたくさん出会って、いつも以上に嗅覚に集中していたからか、つられて五感全てが刺激されたようだった。夜ご飯に食べた湯葉も、そのせいかより濃厚に感じたな。窓から差し込む朝日がなんだかまぶしい。日々の忙しさの中で、鈍くなっていた私の五感。その感覚を、KANSEIでの滞在がそっと呼び覚ましてくれたように思う。

香りから始まる "思索の旅" KANSEI京都八条

2024.06.24

bottom of page